サブスクの収益構造で注意すべきポイントと主要な管理指標とは

サブスクの収益構造で注意すべきポイントと主要な管理指標とは

サブスクリプションビジネスを検討される事業者が増えています。サブスクリプションビジネスとは、「商品やサービスなどの一定期間の利用に対して、料金を支払う方式」のビジネスを指します。多くの場合、定額料金で利用できる商品・サービスとして提供されています。サブスクリプションビジネスに参入する前に、特に収益構造・利益構造の面で注意すべきポイントについて記載します。

目次

売り切りとサブスクの収益構造・利益構造比較

商品やサービスの売り切りビジネスとは異なり、サブスクリプションビジネスならではの収益構造とコスト構造には特徴があります。以下の図は、ある商品・サービス1単位あたりの売上とコストの関係を示したものです。サブスクリプションビジネスでは、この1単位のことをユニットエコノミクス(Unit Economics)と呼びます。

売り切りとサブスクの収益構造・利益構造比較

サブスクはコストが先行する点に注意

売り切りの場合には、販売時点で売上が全額計上されるため必要コストとの対比がしやすく、利益計算が行いやすいです。反面、サブスクリプションビジネスでは多くの場合、単位あたりコストに対して月当たりの売上が低く、コストを回収するまでに複数回の売上を積み重ねる必要があります。このため、最初の販売時点から、ある一定の期間、コストが先行することになります。コストが先行する期間はビジネスモデルに左右され、また、実際の成長率やサービスの継続率に大きく依存します。

このため、コスト先行期間があることを理解した上で、ビジネスオーナーである経営陣が、ある程度の期間は耐えていくのだという腹くくりと、緻密な資金計画と予算実績管理、さらに、サブスクリプションビジネスを管理するための管理指標のモニタリングやコントロールが不可欠といえます。想定より利用が拡大しない場合や、解約率が高止まりする場合には回収期間の長期化を招き、反対に短期的に利用が拡大しすぎた場合、当初想定よりも大きなキャッシュアウトが生じ、想定外のコスト負担となることが起こりえます。この点はサブスクリプションビジネスにおいて最も悩ましいポイントの1つにあげられるでしょう。

サブスクの収益構造・利益構造を改善する、代表的な管理指標を紹介

サブスクの収益構造・利益構造を改善していくために、代表的な管理指標をいくつかご紹介します。

サブスクの代表的な管理指標内容
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)1人か1社の顧客が、自社と取引を開始してから終了するまでの間で、どれだけの利益をもたらすか
MRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)毎月繰り返し計上できる売上
CMRR(Committed Monthly Recurring Revenue:コミットされた月次経常収益)コミットされた予測MRR
ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)毎年繰り返し計上できる売上
LVR(Lead Velocity Rate:リードの速度率)パイプライン上に存在する見込客数
CAC(Customer acquisition cost:顧客獲得コスト)1人か1社の顧客を獲得するために必要となるコスト
CAC Payback Period(CACの回収期間)顧客獲得コストを回収するために必要な回収期間
UE(Unit Economics:ユニットエコノミクス:1単位ないし1社あたり採算性)1人か1社の顧客採算性
ARPU(Average Revenue Per User:1単位ないし1社あたり平均売上金額)(無償利用を含めた)全ての顧客の平均売上金額
ARPPU(Average Revenue Per Paid User:有償顧客1単位・ないし1社あたり平均売上金額)有償顧客の平均売上金額
CR(Churn Rate:解約率)解約率
現預金・キャッシュフロー(Cash flow)現預金、キャッシュフロー
サブスクの代表的な管理指標

LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)

LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)は、サブスクの収益構造を管理する上で、最重要の管理指標といえます。サブスクリプションは長期間の利用によって収益が増大します。自社のサブスクビジネスにおいて、顧客生涯価値が定量的にどのくらいの数値となっているか、把握することから始めましょう。

MRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)

MRRは、毎月繰り返し発生する売上を表す指標で、初期費用や追加費用など役務収益に代表される、一時的な売上は除いて計算します。計算式は以下のとおりです。

MRR計算式

MRR = 平均単価 × 月の顧客数やユーザ数

MRRを計算することにより、月の繰り返し売上を把握することができますが、サブスクの収益管理のレベルをあげるには、細分化された前月対比のMRR計算を行うことで、MRRへの定量的な影響が見える化されます。

  • 新規顧客によるMRR増加分・・・①
  • 既存顧客の追加購入によるMRR増加分・・・②
  • 既存顧客の一部解約やダウングレードによるMRR減少分・・・③
  • 既存顧客の解約に伴うMRR減少分・・・④

計算式:当月MRR = 前月MRR + ① + ② - ③ - ④

このようなMRR計算を行うことで、何が原因となってMRRが変動したのかを管理することができるようになります。

CMRR(Committed Monthly Recurring Revenue:コミットされた月次経常収益)

CMRRは、MRRをより確度の高い数値予測に落とし込んだ指標です。具体的には、MRRに新規契約予約、キャンセル、ダウングレード、解約によるMRRへの影響を考慮に入れることになります。この指標は、あるビジネスがマーケティング活動を停止した際に、獲得できるMRRがどのくらいあるかということを評価できる指標です。特にSaaSと呼ばれる、ソフトウェアのサブスクリプションビジネスにおいて、投資を継続するかどうかの判断やSaaS事業のポテンシャルを見極める際に利用されます。

CMRR計算式

CMRR = 

既存MRR +(新規契約予定MRR + 新規アップセル予定MRR)

- (ダウングレード予定MRR + チャーン予定MRR)

ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)

ARRは年間の毎月繰り返し発生する売上を表す指標です。MRRを12倍したものがARRとなります。ARRは、年間の利用料契約などを行う事業で良く採用されます。法人間取引(BtoB)のサブスクのうち、中規模以上の法人をターゲットにしているビジネスではこのサブスク事業のパターンが多くみられます。反対に、個人取引(BtoC)など月額利用料で提供している商品・サービスの場合、MRRの変動幅が大きくなるため、ARRを管理指標として用いることは少なくなります。

ARR計算式

ARR = MRR × 12

LVR(Lead Velocity Rate:リード速度率)

リードとは、見込客のことです。サブスクビジネスにおいて、将来の成長性をできるだけ正確に見積もることが大切です。現在のパイプライン(※1)上にいる見込客がどの程度存在しているのかを把握するための指標がLVRです。LVRはパーセンテージで表されます。
※1 パイプライン:営業担当者が見込客を顧客化するプロセスを時系列で表現したもの。例えば、営業担当者が見込客に対して「コンタクト→ヒアリング→提案→見積提示→受注」といった営業活動を行う場合、この一連の流れをパイプラインと呼びます。

LVR計算式

LVR = (今月の見込客数 – 前月の見込客数)÷ (前月の見込客数)× 100

CAC(Customer acquisition cost:顧客獲得コスト)

1人もしくは1社の顧客を獲得するために要したマーケティングコストや人件費などがCACです。顧客獲得コスト(CAC)を管理することは、サブスクビジネスの成否を分ける大切な要素となります。先に述べた通り、サブスクはコスト先行型のビジネスであるため、CAC負担が大きくなると、短期的なキャッシュフローが悪化してしまうことが大半です。LTVが極端に長い製品・サービスの場合には、相対的に大きな金額のCACをかけることが許されますが、LTVが短い製品・サービスの場合には特に注意が必要です。SaaSなどのソフトウェアサービスの場合、LTV÷CACを3以内に抑えることが管理上のポイントといわれます。

CAC計算式

CAC = 顧客獲得に要した総コスト ÷ 獲得顧客数

CAC Payback Period(CACの回収期間)

CAC Payback Period(CACの回収期間)は、顧客獲得コスト(CAC)を回収するために必要な期間を示す管理指標です。CAC Payback Periodを過ぎると、サブスクビジネスは利益がでてくることになります。安定的な利益貢献が図れるサブスクビジネスにおいて、重要な管理指標の1つです。

CAC Payback Period計算式

CAC Payback Period = CAC ÷ (MRR or ARR×粗利率)

UE(Unit Economics:ユニットエコノミクス:1単位ないし1社あたり採算性)

UE(Unit Economics:ユニットエコノミクス)は、1人 or 1社の顧客の採算性のことです。サブスクの収支管理単位ともいえます。ユニットエコノミクスの計算式は以下です。

ユニットエコノミクス計算式

Unit Economics = LTV ÷ CAC

ARPU(Average Revenue Per User:1単位ないし1社あたり平均売上金額)

ARPUは、フリーミアムモデルと呼ばれる無償の利用者も含めた、プラン総数全体において、個々の利用者ごとに得られる平均売上を管理する指標です。携帯電話やインターネット回線などを提供している通信会社などで良く採用されている指標です。無償ユーザは収益へ直接貢献しないので、ビジネスにおいてどのような狙いを持って取り込んでいくのか、慎重な検討が必要となります。ARPUの計算式は以下です。

ARPU計算式

ARPU = MRRないしARR ÷ 無償も含めた総利用者数

ARPPU(Average Revenue Per Paid User:有償顧客1単位ないし1社あたり平均売上金額)

ARPPUは、ARPUから無償の利用者を除き、直接収益貢献している利用者の平均売上金額を表します。ARPPUは有償ユーザに絞った収益性確認指標であるため、無償ユーザを前提としたフリーミアムモデルを採用している事業では、ARPPUに現れない収益性悪化シグナルを拾えるような管理の仕組みが必要となります。

ARPU計算式

ARPPU = MRRないしARR ÷ 有償の利用者数

CR(Churn Rate:チャーンレート:解約率)

チャーンレートは、その名のとおり解約数を測定する指標です。通常は月単位で比較をしていきます。当然ですが、解約率が小さくなるほど、成長率が高くなります。数ある管理指標の中でも、チャーンレートの管理は最上位に重要となります。以下の記事に詳しく記載していますので、こちらもご参考とされてください。

チャーンレートの計算式は以下のとおりです。

チャーンレート計算式

チャーンレート = 月ないし年間で解約した顧客数 ÷ 測定期間前の顧客数

チャーンレートは、管理上さらに2つに分類されます。

  • カスタマーチャーンレート(Customer Churn Rate)・・・顧客数を基準にした解約率
  • レベニューチャーンレート(Revenue Churn Rate)・・・収益を基準とした解約率

一般的にチャーンレートという場合には、カスタマーチャーンレートを指します。サブスクの収益構造管理の観点においては、レベニューチャーンレートの管理が大切になってきます。

それぞれの計算式は以下です。顧客数で計算するため、チャーンレートの式と同じです。

カスタマーチャーンレート計算式

カスタマーチャーンレート = 月ないし年間で解約した顧客数 ÷ 測定期間前の顧客数

レベニューチャーンレートは、収益で計算します。

レベニューチャーンレート計算式

レベニューチャーンレート = 減少したMRRないしARR ÷  測定期間前のMRRないしARR

現預金・キャッシュフロー(Cash flow)

現預金、キャッシュフローの動きは見過ごされがちですが、サブスクリプションビジネスにおいても最重要の管理指標となります。サブスクビジネスが難しいのは、新規受注が増えれば増えるほど、短期的なキャッシュアウトフローが大きくなる点です。特に、ある商品・サービスにおけるサブスクビジネスの経験が短ければ短いほど、一度締結できた契約がどの程度継続するのか。言い換えると、平均のLTVがどの程度の長さとなるのか検討がつきません。(正確にいうと、事業計画段階で想定されるLTVは仮説でしかないため、現実の平均LTVがどの程度の長さになるのかはやってみないと分からないということになります。)このような状況下でキャッシュアウトだけが大きくなる事態は、ビジネスの意思決定においてなかなかの踏み込み腹くくりが必要となります。その商品・サービスがどの程度のキャッシュアウトに耐えられるのか。キャッシュアウトフローを補うキャッシュインフローが確保できるのかについて、しっかり見えるようにしておくことが大切です。

適切な管理指標を用いることが、サブスク成功の鍵

ここまで見てきたように、サブスクビジネスでは固有の管理指標が多く存在します。サブスクビジネス成長を確実なものとするため、適切な管理指標を用いてビジネスを管理していくことが大切です。管理指標の測定については、以下の記事も参考とされてください。

コスト先行を乗り越えた先には、安定した継続売上の獲得が

サブスク事業においてコスト先行を乗り越えた先には、継続的な売上の獲得により、精度の高い売上、利益見込を計算できるようになります。具体的には、期首段階で期末までの売上見込と利益見込みが、ある程度以上の確度で計算できることになります。環境変化の影響を受けにくく、経営の安定性に寄与する点はサブスク事業最大のメリットといえるでしょう。アーチ経営サポートでは、サブスクリプションビジネスの進出サポートを行っております。サブスクビジネス進出でご不明の点があれば、お気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

アーチ経営サポート代表 
デジタル拡販アドバイザー / 中小企業診断士 鈴木 將路

IT業界で20年以上、統合基幹業務ソフトウェア事業(ERP事業)に関与。マーケティング責任者、自ら企画したSaaS事業の事業責任者などを担当。ソフトウェア事業開発、新規事業立ち上げ、BtoBマーケティングで20年超の経験を持つ。

現在、成長企業向けに、デジタルマーケティング支援やマーケティング研修、補助金活用サービスなどを展開中。企業経営者と目線を合わせた、きめ細やかなサービスを提供している。中小企業庁認定 経営革新等支援機関。Certified in the Prompt Engineering for ChatGPT Course at Vanderbilt University.

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