
AIチャットボット、ChatGPT(チャットジーピーティー)の衝撃
ChatGPTとは、2022年11月30日に人工知能研究所であるOpenAIによってリリースされたAIチャットボットです。OpenAIが開発したGPT-3言語モデルの上に構築されています。ChatGPTは大量のテキストデータを学習することにより、ユーザーがあたかも人間と会話を行うような、対話型コミュニケーションを可能にしています。
ChatGPTでは、ユーザがチャット画面から入力を行うことにより、文書生成、文書内容の把握、文書の要約など、多様な作業を行うことができます。このChatGPTを使用することで、様々な作業の自動化や効率化が可能になります。
対話型のAIチャットボットは、利用者が聞きたいことをピンポイントで答えてくれるため、情報探索、情報収集のためのコストが極めて低いです。これまで、Googleなどの検索エンジンを使ってWEB上の情報から、自身が必要な情報を探索していたプロセスのかなりの部分を省略することができるようになります。今後さらなる精度の向上により、検索エンジンの代替となる可能性もあります。
ChatGPTは2022年11月30日に公開されると、公開6日目で100万ユーザーを突破したと報じられました。その後、公開2ヶ月間で1億人のアクティブユーザを獲得するに至っています。このスピードで広がったグローバルアプリは過去に例がなく、1億人のアクティブユーザを獲得するのにInstagramで2年以上、動画アプリのTikTokでも9ヶ月を要しています。ChatGPTの台頭を受けて、2022年12月には、Googleの経営陣が「Code Red(事業継続上の緊急事態)」を発行したと伝えられています。

OpenAIとGPT-3言語モデル
OpenAIは、2015年12月に、テスラのCEOやTwitterの買収で話題となったイーロン・マスクを含む複数の投資家により設立された人工知能研究所(AIの研究所)です。汎用人工知能が人類全体に利益をもたらすことを使命とし設立されました。
GPT-3とは、OpenAIが開発した大規模な自然言語処理の人工知能モデル(AI)です。GPTとは「Generative Pretrained Transformer」の略であり、2017年に発表された高速かつ高精度の深層学習モデル「Transformer」を採用しています。大量の文章データを機械学習することにより、人間のような文章を生成することができます。原則的に機械学習では、学習データと計算力を増強し、パラメータの数を増やすことで、どんどん高精度となっていく性質があります。GPT-3は、ウェブ上にある大量データ(約4兆単語)で学習し、約1,750億個ものパラメータを持つと言われています。GPT-3は前のモデルであるGPT-2よりも大幅に改良され、より自然な文章生成や、翻訳、要約、回答生成を可能にしています。2023年3月には、OpenAIはChatGPTのAPIを提供開始し、アプリ開発者はAPIを通じてChatGPTのサービスを利用できるようになりました。GPTは人工知能技術の進化を反映し、今後、より多くのアプリケーションやサービスに利用されていくことになるでしょう。
ChatGPTによるマーケティング効率化のヒント5選
ChatGPTには、使い方次第で様々な可能性があります。企業のマーケティングや営業に携わる方は、ぜひ活用を図っていきたいところです。日々のマーケティング活動の効率化において、現時点(2023年2月時点)で有効と考えられる使い方は以下のようなものです。
ヒント1:ChatGPTに、オウンドメディアなどのコンテンツ記事の骨子案を生成してもらう
コンテンツマーケティングやオウンドメディアに取り組んでいる場合、定期的にWEBサイトやブログなどに記事を公開することになると思います。例えば、記事の骨子を考えたい時に、「ChatGPTで何ができるのか」記事の構成案の見出しを提示してください。と質問を投げてみました。以下のような記事の骨子案を生成してもらうことができます。

ヒント2:ChatGPTにコンテンツの要約案を提示してもらう
マーケティング施策には、メールマガジンやWEBサイトなどを通じて、何らかのテーマを見込み顧客に知ってもらう(=認知してもらう)ための活動を行うことがあります。認知活動の事前準備として、各種報告書や、まとまった文章を要約して原稿に起こす作業が発生することがあります。そんな時、以下のように文章の要約をChatGPTに作成してもらうことができます。この例では、ChatGPTに童話「桃太郎」を要約してもらっています。結果は以下のようになりました。

ヒント3:ChatGPTに施策の構成案を提示してもらう
マーケティング施策を行う際に、各施策をどのような構成とするのかを考えるのには時間がかかるものです。ChatGPTを活用して構成案の叩きを出してもらうことができます。ChatGPTにメールマガジンの構成案を訪ねてみると、以下のようになりました。

次に、ChatGPTに販売管理ソフトウェアの導入事例の構成案を提示してもらうと、以下のようになりました。

ヒント4:ChatGPTにアンケートの構成案を提示してもらう
セミナーやイベント、研修会などの終了後に、聴講者アンケートを取得することがあります。ChatGPTを活用してアンケートの構成案を出してもらうこともできます。以下はマーケティング担当者向け研修が終わった後のアンケートの構成について、案を出してもらっています。

ヒント5:ChatGPTにSEOキーワードやコンテンツ案を提示してもらう
ChatGPTに、SEO(Search Engine Optimization/ 検索エンジン最適化)対策を行う際の、SEOキーワードの案やコンテンツ案を提示してもらうことができます。以下では、「30代に勧めたい、コスメ・化粧品」についてSEO対策を考えたい際の質問と回答です。ChatGPTに適切に指示を与えることで、表組みにして回答を提示してもらうこともできます。

ChatGPTを使ったマーケティング効率化の注意点
これまで見てきたように、ChatGPTはマーケティングにかかる作業の効率化においても、大変有効であることがご理解頂けたのではないでしょうか。そんなChatGPTですが、現時点では過渡期でもありいくつかの注意点もあります。
注意点①:回答内容の精査が必要
便利なChatGPTですが、回答内容が正しいかどうかの精査は必要です。現状では情報の受け手側に内容の正否を判断するための相応の知識が求められます。英語圏でのサービスであることも影響している可能性がありますが、特に新しい情報についてはより丁寧な精査が必要です。なお、2023年2月時点でのChatGPTは、2021年より新しい情報は学習内容に含まれていません。以下は、2023年2月現在の日本の総理大臣、岸田 文雄氏について訪ねたものです。

注意点②:回答内容をそのままWEBサイトなどの記事にしない
原理的にはChatGPTを使って、これまで手作業で書いていたWEBサイトやブログなどのコンテンツ記事を大量生成することも可能です。こうした記事の大量投稿について、2023年1月時点においてGoogleは明示的にスパムと認定してはいません。ですが、今後おそらく何らかのチェックの仕組みが組み込まれることで、スパムに認定されるリスクがあると考えられます。既にOpenAIでは、AI Text Classifierという、1000文字以上の文章がAIによって書かれたものなのかを判別する仕組みを公開しています。このような類似技術が発展し、質の低いコンテンツやコピーコンテンツが淘汰される可能性もあります。

ChatGPTのような文章生成AIはあくまでも補助的に利用し、文章の編集や最終構成は人間が行うだけでも、以前と比べると十分な効率化・生産性の向上が図れます。今後、マーケティングコンテンツの制作現場では、「AIでコンテンツの骨格を生成+人間が編集」といった作業の分担が主流になるかもしれませんね。
ChatGPTの仕組みとMicrosoftのOpenAIに対する巨額投資(2023年2月 追記)
ChatGPTは、入力された質問に対して、最も回答可能性の高い文字を返すという仕組みで動作しています。このため、あたかも正確であるような回答を返すことがありますが、内容の妥当性についてはしっかりと精査することが必要となります。2023年1月にMicrosoftがOpenAIへの1.3兆円もの巨額投資を発表すると、Microsoftが保有する検索エンジンであるBingにChatGPTが組み込まれました。ここで採用されているエンジンはGPT-3の後継である、GPT-4であると言われています。2023年2月時点でのChatGPTはWEB上の情報を探索しませんが、BingのGPTチャットボットは①信頼性・権威性のあるWEB上の情報を探索すると共に、②GPTエンジンによる回答自動生成を同時に行い、①と②を組み合わせて回答を返す仕様となりました。これにより情報の正確性が従来のChatGPTと比べて格段に向上しています。
以下は、Microsoft BingのChatGPTに2023年2月時点の総理大臣について、お名前と略歴を教えてくださいと質問してみた際の回答です。詳細情報として、WEBサイトの情報を組み合わせて回答を生成していることがわかります。

ChatGPTの能力を引き出す「プロンプトエンジニアリング」(2023/3追記)
ChatGPTなど生成系AIの能力を最大限に引き出すには、AIにどのような指示を与えられるかが大切となります。この指示のことを「プロンプト(prompt)」と呼び、AIの思考を人間が助ける技術を「プロンプトエンジニアリング(Prompt Engineering)」と呼びます。マーケティングコンテンツの生成過程で、ChatGPTなど生成系AIを活用する場面においても、このプロンプトエンジニアリングが重要であることは言うまでもありません。ここでは2022年に発表された論文「Chain-of-Thought Prompting Elicits Reasoning in Large Language Models」を参照し、そこで紹介されている代表的なプロンプトエンジニアリングの手法をご紹介します。
Chain-of-thought prompting(連鎖的思考プロンプト)
Chain-of-thought promptingとは連鎖的思考指示とも呼ばれ、ChatGPTなどの生成系AIに連鎖的思考を促す指示を与えることで、回答精度を向上させることができます。例として、以下のような計算を行うように指示をします。
Q: あなたはゴルフボールを8個持っています。あなたはさらにゴルフボールを2パック購入します。
1パックにゴルフボールが3個入っています。あなたは今ゴルフボールを持っていますか。
A:答えは14個です。
Q:あなたは青果物店を営んでいます。店先には45個のリンゴがありました。彼らは顧客に20個のリンゴを販売しました。さらに追加でリンゴを14個仕入れました。あなたはリンゴをいくつ持っていますか?
通常プロンプトでは、ゴルフボールの計算結果のみを提示し、リンゴの計算指示を与えています。通常のプロンプトはこのようになりますが、連鎖的思考プロンプトでは、以下のような連鎖思考を促す指示を与えます。
Q: あなたはゴルフボールを8個持っています。あなたはさらにゴルフボールを2パック購入します。
1パックにゴルフボールが3個入っています。あなたは今ゴルフボールを持っていますか。
A:あなたはゴルフボールを8個持っていました。
ゴルフボールは3個入りで2パック購入したので6個分です。
8+6=14個です。答えは14個です。
Q:あなたは青果物店を営んでいます。店先には45個のリンゴがありました。彼らは顧客に20個のリンゴを販売しました。さらに追加でリンゴを14個仕入れました。あなたはリンゴをいくつ持っていますか?
連鎖的思考プロンプトでは、ゴルフボールの計算結果のみを示すのではなく、どのようにゴルフボールを計算するのか、計算過程を与えています。計算過程を与えることで、ChatGPTなどの生成系AIが計算過程を踏襲した回答を行えるようになります。実際のChatGPTへのプロンプトと回答は以下のようになります。

このように連鎖的思考プロンプトを活用すると、AIの回答精度を高めることができるようになります。
GPT4の正式リリースと能力(2023/3追記)
2023年3月14日に、OpenAIはGPT3の後継であるGPT4を正式リリースしました。2023年3月時点で、OpenAIはGPT4をどのようなデータやパラメータで学習させたのかを明らかにしていません。ただ、①マルチモーダル型となり、入力に文字以外に画像を受け付けられるようにしたことと、②上記のMicrosoft BingにはGPT4が採用されていることが分かっています。GPT4にアメリカの司法試験であるUniform Bar Examを解かせたところ、スコアが298点/400点となり、上位10%(90パーセンタイル)にランクインする結果を出したとされています。ChatGPTに採用されているGPT3.5が上位から90%(10パーセンタイル)の213点/400点であったことを踏まえると、かなりの性能向上が図られていると推測されます。今後、マーケティング効率化の検討においてGPT4を利用する場合でも、高精度の恩恵を受けられるプロンプトの生成力が、より大切となっていきます。

メリット・デメリットを理解してAIを活用しましょう
AIの進化によって、マーケティング作業が効率的に進められることは、マーケティングの専任者などが配置できない組織やチームにとっても素晴らしいことだと思います。現状では回答内容の面では基本的な知識が返されるケースも多く、その道の専門家から見ると物足りなさが残る部分もあります。ですが、時間の経過とともに回答精度や回答品質が高まってくるでしょう。こういった新しい道具には早い段階で触れておき、特徴や癖のようなものを理解できると生産性が高まります。現時点でのAI活用のメリットデメリットを理解した上で、上手に活用していきたいですね。
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