アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)とは何か?
アカウント・ベースド・マーケティング (Account Based Marketing:ABM)は、BtoBマーケティングの戦略の一つで、特定の顧客(アカウント)へ注力し、最適化された戦略を行うことを特徴としています。ABMの本質は、重要な対象顧客のニーズや課題を深く理解し、その情報を基盤に顧客との関係性を強化し、個別に最適化されたマーケティング戦略や営業アプローチを実行することです。主要な取引先に対する個別のフォローアップ、いわゆるアカウント型営業は多くの企業で既に実践されています。では、ABMのもたらす新たな要素は何でしょうか。それは、デジタルマーケティングによる顧客接点の構築手法を従来のアカウント型営業の手法と組み合わせることにより、より効果的に関係性を強化できるという点です。顧客との接点が増えることで、反応状況の把握が効率的になり、アプローチの効果を大幅に向上させます。ABMは、対象顧客への深い理解を可能にし、それによって更に適切な商品やサービスの提供を実現することを目指しています。
ABMとリード・ベースド・マーケティング(デマンドジェネレーション)との差異
アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)は、リード・ベースド・マーケティング(デマンドジェネレーション)との差異を押さえると理解しやすいです。
アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)の特徴
アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)には、以下のような特徴があります。
ABMの主な特徴
- ターゲットの精度:
ABMは、特定の顧客に絞り込んでマーケティング活動を展開するため、効果的にリソースを集中し、高い投資対効果(ROI)を達成できる可能性があります。 - 個別最適化:
ABMでは、特定顧客のニーズや課題を深く理解し、個別に最適化されたコンテンツやメッセージを作成することで、顧客との関係性を強化します。 - マーケティングと営業の密連携:
ABMは、営業部門とマーケ部門が協働して特定顧客を深掘るため、目標達成に対する組織全体の一貫性を高めます。 - 管理指標の進化:
ABMでは、見込み顧客の生成数(リード数)から、マーケティング施策の反応率など、特定顧客との関係性構築度など、取引成約までのマーケティングの影響力を測定するためのKPIが使用されます。
アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)の利点
アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)には、以下のような利点があります。
利点①:特定顧客の深い理解による、高い顧客満足度や顧客ロイヤリティの向上が見込める
アカウント・ベースド・マーケティング (ABM) において特定顧客の深い理解は、極めて重要な役割を果たします。特定化された顧客は、その顧客ごとに異なるニーズや目標、ビジネスモデルを持つため、顧客を深く理解することは個別最適化された戦略を開発する上で不可欠となります。顧客理解の深さによって、特定顧客が抱える課題を特定し、その解決策を提供することで直接的な価値を生み出すことにつながります。これは、具体的な商品やサービスの提供だけでなく、有益な情報の提供や問題解決のためのアドバイスなども含まれます。その結果として、より適切な商品やサービスの提供が行われるばかりでなく、顧客満足度や顧客ロイヤリティを高めていくことができます。また、特定顧客の理解は、強固な顧客との関係を構築することにつながり、ビジネスパートナーとしての関係性を維持する上でも重要です。顧客と深い関係を構築することは、顧客の信頼と長期間のパートナーシップを築くための基盤となります。これにより、持続可能なビジネス成長と対象顧客の生涯価値(LTV)を大きくすることが可能となります。
利点②:マーケティングの投資対効果 (ROI) の改善
アカウント・ベースド・マーケティング (ABM) は、特定顧客に対する個別の戦略を立案し実行するため、マーケティングの投資対効果 (ROI) を改善することができる場合があります。まず、ABMは重要な特定顧客に対してピンポイントでマーケティング資源を割り当てることで、無駄な出費を削減します。さらに潜在的な顧客が限定されたリストに絞られるため、広告による認知度向上など広範囲にわたるマーケティング活動の必要性が減少します。このように、ABMは主にマーケティングにかかる投資対効果(ROI)を改善できます。ただし、ABMでは特定顧客と直接接点を持つ営業マンの比重が高くなるケースが多く、営業マンにかかる人件費や、営業活動にかかる経費が増大するケースもあるため、マーケティングコストに加えて、営業コストも含めたトータルコストで考えていく必要があるでしょう。
アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)の進め方
アカウントベースドマーケティング(ABM)を進めるためには、以下のステップを踏んで実行すると効果的です。
ステップ1. 目標の設定
まず最初に、アカウント・ベースド・マーケティング (ABM)戦略の目標を明確に設定することが重要です。具体的な目標を設定することで、後続のステップを効果的に進めることができます。例えば、新規顧客獲得、既存顧客の拡大、ABMによる売上増加などの目標を設定します。
ステップ2. 対象顧客(ターゲットアカウント)の選定
次に、対象顧客(ターゲットアカウント)を選定します。ここでは、戦略に最も適したアカウントを特定するために、ターゲットアカウントのリストを作成する方法をご紹介します。
対象顧客(ターゲットアカウント)の選定手順
- 理想的な顧客をより深く理解する
- 理想的な顧客企業のペルソナを作成する
- ICPを整理し、ICPに合った企業を見つける
ICPとは、Ideal Customer Profileのことで、企業が持つ理想的な顧客のプロフィールと、実際の顧客がそのプロフィールにどれだけ適合しているかを評価する指標です。 - ABMで追跡したい、適切なアカウントのリストを作成する
ターゲットアカウント選定に利用する、ICP(Ideal Customer Profile)の整理例は以下のようなものです。
ステップ3. 対象顧客(ターゲットアカウント)について、データの収集と分析を行う
選定したターゲットアカウントに関するデータを収集し、分析します。これには、顧客の購買履歴、承認経路や意思決定者、キーマンの情報、ウェブサイトの行動データ、ソーシャルメディアやSNSでの行動履歴などが含まれます。データ分析によって、ターゲットアカウントのニーズや傾向を把握し、マーケティング戦略を最適化していくことができます。
ステップ4. 対象顧客(ターゲットアカウント)の優先順位づけを行う
ターゲットアカウントの選定が終了したら、アプローチの優先順位を決定し進めることが重要です。優先度を明確化することで、非効率なマーケティング、営業活動を回避することが狙いです。一例ですが、優先順位は以下のように設定します。
特定顧客(ターゲットアカウント)の優先順位づけ手順
- 特定顧客(ターゲットアカウント)をリスト化する
- ICP適合度をパーセンテージで設定
- 次の取引における機会収益(期待される収益)を0-10の値で設定
- 過去の購入履歴の頻度や金額の大きさを加味し、0-10の値で設定
- 意思決定者とどの程度良好な関係が構築できているのかを、0-10の値で設定
- 各項目に重み付け(ウェイト)を付与
- 各項目の値とウェイトを掛け合わせ、マーケティングアプローチの優先順位を決定
上記を加味したアカウント・ベースド・マーケティング(ABM)の優先順位づけされたリストは以下のようなイメージとなります。ここでは顧客Cの優先度が高いことがわかります。
ステップ5. 対象顧客(ターゲットアカウント)に個別最適化されたアカウントプランの策定
対象顧客(ターゲットアカウント)と優先順位が決定されたら、対象顧客に対する個別のアカウントプランを策定します。アカウントプランの内容は自社の事業モデルや販売したい商品・サービスによって変わります。代表的なアカウントプランの項目は以下のような項目を含みます。
代表的なアカウントプランの例
- 顧客の概要
- 達成したい目標(KGI)とマーケティングプランを含む販売戦略、KPIの概要
- 対象顧客の組織図とキーパーソンの特定
※:情報収集可能であれば、抵抗勢力の特定も行う - 実行計画
また、アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)では、対象顧客に合わせ個別最適化されたコンテンツを開発することが重要です。コンテンツは、特定の対象顧客のニーズや課題に細かく対応し、興味・関心を引くものである必要があります。具体的には、対象顧客にカスタマイズされたWEBページやランディングページ、専用の資料、個別のメールマガジンなどが該当します。
ステップ6. 複数のマーケティングチャネルでの展開
特定顧客(ターゲットアカウント)へのマーケティングメッセージを効果的に伝えるために、複数のチャネルを活用します。アカウント営業の直接アプローチに加えて、電子メール、ソーシャルメディア、デジタル広告、セミナーやウェビナーなどのイベント、ユーザー会などが代表的な手段です。それぞれのマーケティングチャネルは、ターゲットアカウントの指向性や行動に基づいて適切に選択していきます。
ステップ7.営業部門との密連携
アカウント・ベースド・マーケティング (ABM) では、営業部門との緊密な連携が重要です。一般的なデマンドジェネレーション施策と比べて、営業部門、特にフィールドセールスと呼ばれる、顧客と直接相対する営業マンの重要度が高いです。マーケティング部門と営業部門では、特定顧客に対する情報共有やコミュニケーションを通じて協力し、効果的な顧客体験を提供する必要があります。営業部門は、ターゲットアカウントに対して個別最適化されたアプローチを行い、潜在的なチャンスを追求します。
ステップ8. 成果の測定と最適化
最後に、アカウント・ベースド・マーケティング (ABM) の効果を測定し、必要に応じて最適化を行います。適切なKGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)を設定し、ターゲットアカウントへの影響を定量化します。成果の分析とフィードバックに基づいて戦略を調整し、継続的な改善を行います。
代表的なKGI | 代表的なKPI |
---|---|
ターゲットアカウントの新規接触数 | ターゲットアカウントからの反応率(エンゲージメント率) |
ターゲットアカウントの新規契約締結数 | 契約締結までの時間(セールスサイクル) |
ターゲットアカウントへの新規商材提供数 | ターゲットアカウントとの商談数 |
ターゲットアカウントへのクロスセル/アップセル金額 | NPS(Net Promoter Score:ネットプロモータスコア) ※顧客ロイヤリティの評価指標 |
など | など |
アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)で顧客との関係性を強化しましょう
アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)への取り組みは、顧客に寄り添うマーケティングです。十分に顧客を理解し、最適な情報の提供と提案を行うことで、ライバルを遠ざけるとと共に、自社商品・サービスへのロイヤリティを高くすることができます。自社に適用可能な商品・サービスがあれば、活用を検討してみてはいかがでしょうか。