
ものづくり補助金の2025年度版で、申請基準が公開されました。こちらについて解説します。審査項目を理解することで、申請書類作成の際のポイントがわかり、採択率を高めることができます。
ポイント1. 補助事業の適格性
審査ではまず、基本的な適格性が確認されます。
- 公募要領に記載された対象者、対象事業、対象要件等の条件を満たしているか
対象者や対象事業、対象要件については以下の記事を参照ください。

ポイント2. 経営力
事業を成功に導くための経営力があるかが評価されます。審査項目は以下となります。
- 経営目標の具体性
- 外部・内部環境の分析を踏まえた事業戦略の策定
- 当該事業戦略中の本事業の位置づけ
- 会社全体に対する本事業の売上高の水準
経営目標の具体性とは
経営目標を具体的に説明するには、「3年以内に売上高○○円」や「市場シェア○○%獲得」といった数値目標の明確化が不可欠です。これに加えて、短期(1年以内)、中期(3年程度)、長期(5年以上)といった達成時期を明示することで、段階的な成長計画を描くことができます。また、売上高、利益率、顧客数などの主要な経営指標をKPI(重要業績評価指標)として設定し、それぞれの目標値を具体的に記載することが大切です。
外部・内部環境の分析を踏まえた事業戦略の策定とは
外部・内部環境の分析を踏まえた事業戦略の策定するには、SWOT分析を活用して自社の強み・弱み、そして市場における機会と脅威を具体的に分析することがわかりやすい方法です。これに加えて、主要競合他社との比較表を作成し、自社の差別化ポイントを明確にすることで競争優位性を把握できます。
また、市場の成長率や技術革新、規制変更などの業界トレンドを分析し、これらの動向を踏まえた戦略立案が重要です。さらに、人材、資金、設備、技術力、ノウハウといった内部リソースの現状と課題を明示することで、実行可能な計画を策定できます。これらの分析を総合的に行うためには、自社・顧客・競合の3つの視点(3C分析)から事業環境を多角的に捉えることが効果的です。
当該事業戦略中の本事業の位置づけとは
「当該事業戦略中の本事業の位置づけ」とは、ものづくり補助金を申請する事業が、あなたの会社の全体的な事業戦略においてどのような役割を担っているかを示すものです。簡単に言えば、「この補助事業は会社の将来計画の中でどんな意味を持っているのか」を説明することです。
申請する事業が「思いつきの一時的なプロジェクト」ではなく、会社の長期的な方向性や目標と密接に結びついていることを示す必要があります。つまり、「なぜこの事業に補助金を投入すべきなのか」という理由が、会社全体の戦略と整合していることが大切です。
例えば、「当社は環境配慮型製品へのシフトを5年計画の核としており、本事業で開発する省エネ製造技術はその実現に不可欠である」といった説明は、事業の戦略的位置づけを明確に示しています。
会社全体に対する本事業の売上高の水準とは
「会社全体に対する本事業の売上高の水準」とは、ものづくり補助金を申請する事業が、会社の総売上に対してどれくらいの割合や金額を占めるかを示すものです。
これは簡単に言えば、「この新しい事業が会社の売上全体にどれだけ貢献するのか」という指標です。もし、新事業の売上規模が会社全体から見て非常に小さければ、その事業の成功が会社の成長にあまり寄与しないと判断される可能性があります。逆に、新事業が将来的に会社の主力事業になる可能性があれば、補助金投入の効果が大きいと評価されるでしょう。
申請する際には、売上高の水準について具体的な数字や根拠を示せることが重要です。「数年以内に会社の売上高の20%を占める見込みであり、その根拠は市場調査の結果XとYである」といった具体的な説明ができると良いでしょう。
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ポイント3. 事業性
ビジネスとしての実現性と収益性が詳細に審査されます。
- 付加価値創出や賃上げの高い目標値設定かつ実現可能性の高さ
- 課題や目標の明確化
- 市場の規模や動向の分析
- 当該市場の成長見込み
- 当該事業が顧客に与える価値
- 顧客ターゲットの明確化
- 顧客のニーズ調査・検証の有無
- 当該事業により提供される製品やサービスが顧客から選ばれる理由の理解
- 競合する他社製品・サービスや代替製品・サービスの分析有無やそれに対する本事業の製品・サービスの差別化及び優位性
事業性とは
事業性では、ビジネスとしての実現性と収益性が詳細に見られます。単に「この製品を作りたい」という想いだけでなく、その事業が付加価値を創出できるか、従業員の賃上げなどにつながる収益性があるかを確認されます。ここでは裏付けのある目標設定と、それが実現可能であることの両方が大切です。現実的な計画であることを示す必要があります。
次に、事業における課題や目標の明確化も重要です。「なぜこの事業に取り組むのか」という問いに対する明確な答えがあるかどうかです。例えば、市場に存在する問題点を解決するのか、新たな価値を提供するのかなど、事業の意義を明確にすることが求められます。
市場の規模や動向の分析も審査のポイントです。参入しようとしている市場がどのくらいの規模で、今後どのように変化していくのかを把握していることが必要です。成長が見込める市場であれば、事業の将来性も評価されます。「この市場は今後〇年で××億円規模に成長する見込みです」といった具体的な数字を示せると説得力が増します。
また、その事業が顧客に与える価値も重要な項目となります。どのような顧客をターゲットにするのか、その顧客が抱える課題や望んでいることは何か、それを製品やサービスがどう解決するのかを明確に示す必要があります。顧客ニーズを調査・検証した実績があれば、評価されやすくなります。
最後に、競合製品やサービスとの差別化点や優位性の分析も求められます。市場には既に似たような製品やサービスが存在していることが多いものです。そのような中で、なぜ顧客があなたの製品やサービスを選ぶのか、その理由を明確に説明できることが大切です。「競合Aと比較して△△の点で優れている」「市場に無い××という特徴がある」など、具体的な差別化点を示すことが大切です。
事業性の審査では、これらの要素が総合的に判断されると考えられます。ビジネスとしての実現可能性と収益性を示すためには、市場・顧客・競合に関する深い理解と、それに基づいた具体的な計画が必要になります。
グローバル枠のみの審査項目
ものづくり補助金にはグローバル枠がありますが、以下はグローバル枠のみの審査項目となります。
- 海外展開等に必要な実施体制の計画明記
- 海外事業に係る専門性の有無
- 市場調査分析の有無
- 国内の地域経済への寄与
- 国内での新たな需要や雇用の創出等の将来性
- ブランディング・プロモーション等のマーケティング戦略の具体性
ポイント4. 実現可能性
計画の実行力と持続可能性について評価されます。
- 技術力の有無
- 競合他社と比較した際の優位性
- 体制や財務状況
- 金融機関等からの十分な支援見込み
- 事業化までの遂行方法や課題の解決方法の妥当性
- 費用対効果
実現可能性の審査では、会社が持つ「技術力」が評価されます。例えば、新しい製品を開発したいとき、その製品を作るための技術や知識を既に持っているか、または習得する計画があるかが問われます。「この技術なら私たちはできます」と自信を持って言えることが大切です。
次に「競合他社との比較における優位性」です。世の中には似たような商品やサービスを提供している会社がたくさんあります。計画が他社と比べて「ここが違う」「ここが優れている」という点をはっきりと示せるかが重要です。例えば、より低コストで生産できる方法を持っているとか、独自の特許技術があるといった強みです。
「体制や財務状況」も審査の対象です。あなたの会社に計画を実行するための人員や組織体制が整っているか、また資金面は健全かが見られます。例えば、プロジェクトを進めるチームがきちんと組まれているか、会社の経営状態は安定しているか、資金調達の目処が立っているかなどです。また、「金融機関からの支援見込み」も大切です。銀行などから融資を受けられる見込みがあるかどうかは、計画に対する信頼性の証となります。
「事業化までの遂行方法や課題解決の妥当性」では、計画の具体的な進め方が現実的かどうかが見られます。例えば、「最初にこの技術開発をして、次にこの課題を解決して、そして販売ルートを確保する」といった流れが筋道立っているか、また想定される課題への対処法が適切かが評価されます。
最後に「費用対効果」です。投入する費用に対して、得られる効果が見合っているかどうかです。例えば、1,000万円の設備投資をして、年間100万円の売上増加しか見込めないのでは効果が小さすぎます。投資に対してどれだけのリターンが期待できるかをしっかり示すことが重要です。
これらの審査項目は「本当にこの計画は実現できるのか」「実現した後も持続的に事業として成り立つのか」を多角的に評価するためのものです。審査員に「この計画なら成功しそうだ」と思ってもらえるような内容にすることが大切です。
ポイント5. 政策面
補助金制度の政策目的との整合性が重視されます。
- 地域経済への波及効果
- 地域の経済成長率引力
- ニッチトップとなる潜在性
- イノベーション性
- 事業環境の変化に対する投資内容
- 成長と分配の好循環に向けた投資内容の有効性
補助金の原資は税金であるため、計画が国や地域の経済政策に沿った提案かどうかを評価するものです。
政策面では、まず「地域経済への波及効果」が見られます。事業が成功することで、地元の雇用が増えたり、周辺企業にも仕事が回るなど、周りの経済にも良い影響を与えるかどうかです。
また「地域の経済成長率引力」とは、事業が地域全体の経済成長を引っ張る力になれるかを評価します。例えば、新しい産業を生み出したり、地域特有の資源を活かして全国から注目を集めるような取り組みなどが評価されます。
「ニッチトップとなる潜在性」は、市場は小さくても、その分野で日本一や世界一になれる可能性があるかどうかです。大企業が参入しにくい専門分野で独自の強みを持てるかが重要になります。
「イノベーション性」は、今までにない新しい価値を生み出せるかどうかです。既存の製品やサービスを少し改良するだけでなく、新しい技術や方法を取り入れて、業界の常識を変えるような提案が評価されます。
「事業環境の変化に対する投資内容」は、デジタル化やカーボンニュートラルなど、今の社会の大きな変化に対応するための投資かどうかを見られていると考えられます。時代の流れを読み、先を見据えた投資計画が求められます。
最後に「成長と分配の好循環に向けた投資内容の有効性」とは、事業が成長することで得た利益が社会に広く行き渡り、それがさらなる成長につながる仕組みがあるかどうかです。例えば、利益を従業員の給与アップに回したり、地域社会への貢献に使ったりする計画があると良いでしょう。
これらの要素は、事業が単に儲かるだけでなく、社会全体にとっても価値のあるものかどうかを評価するものです。申請書を書く際は、事業がどのように社会や経済の発展に貢献できるのかを具体的に説明することが大切です。
ポイント6. 大幅な賃上げに取り組むための事業計画の妥当性
※幅賃上げ特別枠申請のみ必要となる審査項目です。
- 賃上げ計画の内容及びその根拠
- 継続性、企業成長の見込み
- 適切な人材育成、人事評価
- 体制面、営業面の強化
賃上げ計画の内容とその根拠
まず大切なのは、どのように賃金を上げるのか具体的な計画を示すことです。例えば「3年間で社員の平均給与を〇〇%引き上げる」といった明確な数値目標を設定します。なぜその数値が達成可能なのか、会社の財務状況や売上予測に基づいた根拠を示す必要があります。売上増加や利益率向上の見込みがあるからこそ賃上げが実現できるという筋道を明確に説明することが求められます。
継続性と企業成長の見込み
賃上げは一時的なものではなく、長期的に維持できることが重要です。補助金をきっかけに一度だけ賃金を上げても、その後維持できなければ意味がありません。そのため、賃上げを継続するための企業成長戦略が必要です。会社が成長し続けるための具体的な見通しを示すことで、賃上げの継続性を証明します。企業の成長と従業員の賃金向上が好循環を生み出す構図を描くことがポイントとなります。
適切な人材育成と人事評価
賃上げと同時に重要なのが、従業員の能力向上です。給与が上がることで期待される生産性や付加価値の向上を実現するためには、適切な人材育成の仕組みが不可欠です。具体的な研修プログラムやスキルアップの支援制度、資格取得の奨励など、従業員の成長を支える取り組みを計画に含めましょう。また、公正で透明性のある人事評価制度により、賃上げが従業員のモチベーション向上につながる仕組みも重要です。頑張った人が適切に評価され、それが給与に反映される仕組みを示すことで、賃上げの効果が最大化されます。
体制面と営業面の強化
最後に、賃上げを実現・維持するための会社の体制強化も審査のポイントとなります。賃上げを適切に運用するための社内体制の整備計画を示しましょう。また、営業力の強化も重要です。新規顧客の獲得や既存顧客との取引拡大など、収益を向上させるための具体的な営業戦略を計画に盛り込むことで、賃上げの原資を確保する道筋が明確になります。これらの体制強化が、持続的な賃上げと企業成長を支える土台となります。
以上の要素がバランスよく組み合わさった事業計画であれば、「大幅な賃上げに取り組むための事業計画の妥当性」という審査項目において、評価を得られる可能性が高まります。
アーチ経営サポートは中小企業庁認定の「経営革新等支援機関」です。
- 大型から小規模まで幅広い補助金をサポート
- 事業開発に強い中小企業診断士が、実行性ある事業計画策定を支援
- 採択後のアフターフォローも万全
ものづくり補助金申請の審査基準を理解し、採択率を高めるために
ものづくり補助金の申請において、審査項目を正しく理解することは採択への近道といえます。補助金申請の審査では、単に事業内容の新規性や革新性だけでなく、経営基盤の安定性、市場分析の精度、実現可能性の高さ、そして政策目標との整合性まで、多角的な視点から評価が行われています。
審査の基本となるのは「補助事業の適格性」です。これは公募要領に記載された条件を満たしているかという最低限の要件ですが、ここでつまずいてしまっては審査が先に進みません。次に重視される「経営力」では、申請事業が会社全体の戦略の中でどのように位置づけられているのかが問われます。明確な経営目標と綿密な環境分析に基づいた事業戦略が求められているのです。
「事業性」の審査では、ビジネスとしての実現性と収益性が詳細に評価されます。ここでは市場分析の精度が重要となり、顧客に提供する価値や競合との差別化ポイントを具体的に説明できるかがカギとなります。特に顧客ニーズの調査・検証が行われているかどうかは、事業の成功可能性を左右する重要な要素です。
計画の実行力と持続可能性を評価する「実現可能性」では、技術力や体制、財務状況などの裏付けが必要です。単に夢のある計画ではなく、それを実現するための具体的な方法や課題解決策が妥当であるかが問われます。また費用対効果も重視されるため、投資に見合った成果が期待できることを明確に示す必要があります。
さらに「政策面」では、補助金制度の政策目的との整合性が重視されます。地域経済への波及効果やイノベーション性、事業環境の変化に対応した投資内容であるかなどが評価されます。申請内容が国や地域の経済政策に沿ったものであることを示せると、評価が高まります。
これらの審査項目を意識して申請書を作成することが、採択される可能性を高める秘訣です。単なる事業計画の提出ではなく、経営戦略全体の中での位置づけや、市場・競合分析に基づく事業性の証明、実現のための具体的な道筋、そして政策との整合性について、説得力のある説明を心がけましょう。特に、顧客価値の明確化や競合との差別化、持続可能な成長計画などは重点的に説明すべきポイントです。
補助金申請は単なる資金調達の手段ではなく、自社の事業を客観的に見直し、戦略を磨く良い機会でもあります。審査基準を満たすことを意識しながら申請書を作成することで、事業自体の質も向上していくはずです。採択という結果だけでなく、申請プロセスそのものが自社の成長につながることを理解し、取り組んでいくことが大切です。
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